「上司から包丁を突きつけられました」
働いている職場の治安が悪い場合はどうすればよいのだろうか。とても暴力的な上司の言動に悩んでいる飲食店従業員からの相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
相談者は飲食店の正社員。直属の上司から「包丁を自分や同僚に突きつけ」られたほか、「ガスバーナーの火を腕に当て」られたこともあるという。
女性アルバイトへのボディータッチなどのセクハラ行為でも煙たがられているそうだ。
相談者は「職場の大多数が上司にうんざりしています。どうか助けて下さい」と話す。職場にどんな対応が求められるだろうか。労働問題にくわしい今井俊裕弁護士に聞いた。
●パワハラというより暴行罪などが成立しうる「犯罪」
——包丁を従業員に突きつけたり、ガスバーナーの火を従業員の腕に当てたりする行為は、パワーハラスメントでしょうか。
いわゆるパワハラとは、(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるもの、とされています。
上司が部下に対して、業務上の指示の過程、あるいはその指示を守れなかった場合に、包丁を突きつけて脅したり、あるいは、ガスバーナーの火を相手の腕に当てようとする行為は、明らかにこれらの要件をすべて充たすパワハラ行為でしょう。
というよりも、職場の就業環境が害されるどころの程度や内容ではなく、すでに犯罪の域に達しています。それらの行為で相手が負傷すれば傷害罪ですし、負傷せずとも暴行罪や脅迫罪、場合によっては強要罪が成立します。
慢性的な人手不足や、営業の態様上どうしても労働時間が長くなってしまいがちな職場、さらに朝から晩遅くまで同じ顔ぶれの少人数で回しているような人間関係が密な職場では、上司が部下に対し、暴力を加えたり、その他の違法な行動をとってしまう、という酷い職場は現実にあるようです。これは飲食店に限った話ではありません。
●会社に上司の懲戒処分や配置転換を訴えることも
——相談者の職場では多くの従業員が上司に困っているそうです。事業者にどのような対応を求めることができるでしょうか。
法律では、パワハラが禁止されていることについて周知徹底したり、相談窓口をもうけたり、相談担当者に研修を受けさせる義務、などが規定されています。
しかし中小零細の企業では、相談窓口をつくることすらできていない企業もあります。そのような場合は、企業のトップや幹部にパワハラ被害の実情をうったえ、改善を求めたり、そのパワハラ上司の懲戒処分や降格や配置転換をうったえることになるでしょう。
パワハラ被害を受けている従業員一人だけでは声を上げにくいのであれば、同様の被害を受けている職場の従業員が複数で会社に善処を迫ることも検討できます。