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「先生うんこに行ってきます!」と言える社会へ 19歳で人工肛門、難病に苦しんだ医師の型破りな取り組み
2025年11月18日 10時10分
#日本うんこ学会

「学会」といえば、基本的には真面目で学術的な会だ。「日本うんこ学会」なる、おふざけなのか真剣なのか、謎の会がある。会長は元・消化器外科医で、現在は在宅医の石井洋介さん。どのような会なのか、何を目的に設立したのか。「うんこ」という言葉を用いた意図は何なのか。石井さんにお話を聞いた。(ジャーナリスト・肥沼和之)

「学会」といえば、基本的には真面目で学術的な会だ。「日本うんこ学会」なる、おふざけなのか真剣なのか、謎の会がある。会長は元・消化器外科医で、現在は在宅医の石井洋介さん。どのような会なのか、何を目的に設立したのか。「うんこ」という言葉を用いた意図は何なのか。石井さんにお話を聞いた。(ジャーナリスト・肥沼和之)

●「うんこで救える命がある」

――「日本うんこ学会」とは、何ともインパクトのある名称ですが、どのような学会なのですか。

「うんこで救える命がある」というキャッチコピーで、大腸がんなど消化器疾患の予防啓発を呼びかける非営利の任意団体です。2015年に設立しました。

大腸の病気は、便の異変として表れます。大腸がんであれば、便に血が混じるのが初期症状なのですが、それ以降は症状が出にくく、気づいたときには進行して手遅れになってしまうことも。

そうなってしまうと、外科医としてどんなに腕を磨いても、どうにもならない。異常を早期に発見できるよう、日々便を観察してもらえるように啓発を行っています。

そのための具体的な活動のひとつが、アプリゲーム「うんコレ」の開発・運営。課金をする代わりに、自分の便の状態を記録することで、新しいキャラクターを手に入れられるというものです。

――課金の代わりに便の記録とは、とてもユニークですね。それにしても、「うんこ学会」という名称はインパクトがあります。

市民講座などで啓発しても、健康に関心のある限られた人にしか響きません。あるとき、ネットでバズる言葉のひとつが「うんこ」だと聞きました。絡めることで、若者たちにも届くコンテンツをつくれるのでは、と考えたのです。実際、想像以上の反響がありました。

うんこという言葉を使うことで、「ふざけていると思われないか?」「炎上するのでは?」という指摘が周囲からありましたが、僕自身が潰瘍性大腸炎という難病を患っていることを公表し、辛い思いをした経験から、真面目に啓発をするのが目的ですと発信していったことで、理解も得られたのかと思います。

●潰瘍性大腸炎で友人関係にも影響、不登校に

画像タイトル 闘病中の石井医師(提供写真)

――潰瘍性大腸炎とはどのような病気なのでしょう。

大腸が炎症を起こし、腹痛や下痢、貧血や発熱などの症状が出る病気です。僕が発症したのは中学3年生のとき。血便がぽたぽた出ていたのですが、痔だと思い放置してしまったのです。高校1年のころ、おなかが痛くなり、病院に行ったら潰瘍性大腸炎と診断され、約1カ月間入院しました。

退院してからも大変でした。JR山手線の品川駅から池袋駅まで電車通学していたのですが、トイレに行くために一駅ごとに降りたこともあるほど。間に合わないときも何度かありました。

――想像しただけで辛い体験ですが、周囲に相談などはしたのでしょうか。

いえ、バカにされるのではと思い、同級生にはほとんど言えませんでした。潰瘍性大腸炎は食事制限もあるので、学校帰りに買い食いもできない、ファミレスに誘われても行けない。付き合いが悪いと思われて、友達付き合いもうまくいかず、結局ほぼ不登校になってしまいました。

――潰瘍性大腸炎で苦しんでいる人は少なくないかと思います。アドバイスをお願いします。

潰瘍性大腸炎は難病ですが、今は治療法も薬の種類も増えていて、良い状態を維持しやすくなっています。手術という方法もある。しっかり治療をすれば、間違いなくよくなります。

僕は今でも1日5~6回排便に行っていて、一般の人からすると多いですが、山手線で一駅ごとに降りていたときと比べると、かなりコントロールできています。

病気だからといって、可能性が閉ざされることもありません。潰瘍性大腸炎を患いながら、スポーツ選手になった方も、総理大臣になった方もいる。皆さん幅広く活躍されているので、ちょっとした個性のひとつくらいに考えるのがよいと思います。

●19歳で人工肛門を経験

画像タイトル 診察にあたる石井医師(提供写真)

――石井さんは血便を放置したことで病気の発見が遅れてしまいましたが、ちょっとした異常でも病院に行ったほうがよいですか。

そうですね。自己診断は危険なので、一度診断を受けたほうがよいと思います。

――潰瘍性大腸炎以外でも、便の悩みを抱えている人に伝えたいことはありますか。

私が外来診療しているクリニックで多い相談は、過敏性腸症候群の方です。症状は便が近くなる、漏れてしまうなど。ただ、勇気を出して病院に行っても、「体質なのでは?」と取り合ってもらえないこともあると聞きます。

もしそうなったら、セカンドオピニオンに行くのが良いと思います。過敏性腸症候群の専門家もたくさんいますし、もちろん僕のクリニックに来てもらうのも歓迎です。いろいろな薬も出ていますし、止められない便はありませんので、安心して相談に行ってみてください。

――石井さんは19歳で大腸を全摘出し、人工肛門を経験されています。どのような気持ちだったのでしょう。   大腸の摘出手術の前は、体に大きな変化があるのか、人工肛門になったらどうなるのか、不安でした。けれどいざ蓋を開けると、体の辛さが取れて楽になりましたね。食事制限も無くなって何でも食べられるし、人工肛門にもすぐに慣れて、前向きになれました。

病気を抱えて辛い思いをして生きるよりは、思い切って人工肛門にするのもひとつの手段かもしれません。また、約一年後に、人工肛門を閉じる手術を受けることができました。今は医療技術が進んで、できることが本当に広がっていることを、ぜひ知っていただければと思います。

●みんなを幸せにする「うんもれエピソード」

――日本うんこ学会のWEBサイトでは「うんもれエピソード」という、便を漏らしてしまった体験を投稿するコーナーがあり、読みながらくすっと笑ってしまいました。

誰にも言えない経験ですが、開示してみると、共感の声がめちゃくちゃあったりします。あと、飲み会で話すと絶対に受けます。面白いし、みんなを幸せにする話なのに、隠さないといけないのは変かなと。読む人を豊かにさせるコンテンツになったかと思います。

このエピソード集は、『タイムマシンで戻りたい』という本になったのですが、一般の方々から募ったところ、あっという間に集まったのも驚きでした。

――日本うんこ学会の理念のひとつに、『「先生うんこに行ってきます!」が自然と言える社会を目指す』とあります。実現しつつあると感じますか。

昔はうんこに行ったことがばれると、イジメられてしまうこともありました。けれど最近は、堂々と言える子どもが増えているようです。『うんこドリル』がベストセラーになるなど、社会変化もあったおかげで、うんこに寛容な社会になっていることを実感しています。とはいえ、まだ100%ではないので、すべての子どもが「先生うんこに行ってきます」と言えるようになればと思いますね。

【石井洋介さんプロフィール】
高知大学医学部卒業。中学3年生で難病の潰瘍性大腸炎になり、19歳で大腸を全摘出したことをきっかけに医師を目指す。おうちの診療所中野院長、株式会社omniheal代表取締役、日本うんこ学会会長。

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