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「児童ポルノ」単純所持禁止の問題点 「元検事」落合洋司弁護士が指摘
2013年03月01日 11時55分

日本では、実在する18歳未満の児童を被写体とした「児童ポルノ」を製造したり、人に提供する行為などは、いわゆる児童ポルノ法によって処罰の対象となっている。一方で、他人が製造した児童ポルノを個人的に所持すること(単純所持)については、法律では禁止されていない。

児童ポルノをめぐっては、この「単純所持」を禁止し、処罰の対象とする内容を盛り込んだ児童ポルノ法改正案が国会に提出されたこともある。今のところ国の法律レベルでは成立に至っていないが、地方では、奈良県など「条例」によって児童ポルノの単純所持を禁止する自治体も現れ始めた。しかし、単純所持を法律で規制しようとする動きに対して、「表現の自由を侵害する怖れがある」と反対する声も少なくない。

このような状況のもと、表現の自由の擁護を目的とするNPO「うぐいすリボン」は2013年2月20日、東京・永田町の参議院議員会館で「サイバー犯罪と刑事捜査を考える~児童ポルノ単純所持規制の論点~」と題する講演会を開催した。登壇したのは、元検事という経歴をもつ落合洋司弁護士。警察の捜査の内情をよく知る落合弁護士が、児童ポルノ単純所持が処罰の対象となった場合の「刑事捜査の問題点」について解説をおこなった。

●児童ポルノ単純所持が「入口事件」に利用される怖れ

落合弁護士が主に語ったのは「警察の摘発がどのように行われるか」という手続きの問題だ。

「児童ポルノ単純所持が犯罪になった場合、不公平な捜査や偏った捜査が行われたり、捜査権が濫用されたり、捜査の過程で収集された証拠が誤って評価されたりして、冤罪を生む危険性がある」と、落合弁護士は指摘する。現在の警察の人的・物的資源からみて、「すべての単純所持を摘発対象とすることは、おそらく不可能」ということで、「偏向捜査」の危険性があるというのだ。

もし児童ポルノ単純所持が禁じられれば、摘発対象が一気に広がることになるが、そのことは、警察にとって捜査の「手段」が増えることを意味する。そのような点から、落合弁護士は次のように推測する。

「警察は、単純所持で立件して処罰しようと動くわけではなく、より大きな『本件』の立件への突破口とする目的で、単純所持罪を『入口事件』『別件』として利用するのではないか」

「入口事件」としての利用とは、次のようなことだ。

「たとえば、殺人や放火など、捜査のきっかけが掴みにくい事件では、入口事件をもとに、令状の発布や被疑者取調べの名目にすることが起こりうる。児童ポルノ単純所持を『入口事件』として、ガサ入れ(家宅捜索)して、『本件』を立件できれば、警察としては『ありがたいこと』になりうるだろう」

●「リスクを前提とした慎重な検討が必要」

このように警察の捜査権を拡大する方向につながる可能性がある、というのが落合弁護士の指摘だが、それは裏を返せば、ごく普通の人が児童ポルノ法に違反したとして捜査対象になる可能性が大きくなるということでもある。

たとえば、メールで一方的に児童ポルノ画像が送りつけられたり、たまたま児童ポルノの画像が掲載されたサイトを見てしまうなど、何らかの理由でパソコンの中に画像データが入り込んだ場合でも、児童ポルノに関する捜査の対象になる怖れがあるのだという。

「このような場合、本来ならば『故意がない』として犯罪は成立しないだろう。しかしパソコン内のデータについて、利用者が『児童ポルノと知らなかった』と故意を否認していても、それ以外の状況から故意が『推認』されてしまう怖れがある」

パソコンがからんだ犯罪に関わっていないにもかかわらず逮捕されてしまった事例としては、誤認逮捕が続いた「遠隔操作事件」が記憶に新しい。そのような事件と同様の冤罪が起きるリスクがある、と落合弁護士は警鐘を鳴らす。

このような問題を踏まえ、落合弁護士は「単純所持罪の犯罪成立要件を厳格化するとか、あるいは捜査権の濫用を抑制するための対策を考えるなど、リスクがあることを前提とした慎重な検討が行われる必要があるのではないか」と訴えた。

(弁護士ドットコムニュース)

日本では、実在する18歳未満の児童を被写体とした「児童ポルノ」を製造したり、人に提供する行為などは、いわゆる児童ポルノ法によって処罰の対象となっている。一方で、他人が製造した児童ポルノを個人的に所持すること(単純所持)については、法律では禁止されていない。

児童ポルノをめぐっては、この「単純所持」を禁止し、処罰の対象とする内容を盛り込んだ児童ポルノ法改正案が国会に提出されたこともある。今のところ国の法律レベルでは成立に至っていないが、地方では、奈良県など「条例」によって児童ポルノの単純所持を禁止する自治体も現れ始めた。しかし、単純所持を法律で規制しようとする動きに対して、「表現の自由を侵害する怖れがある」と反対する声も少なくない。

このような状況のもと、表現の自由の擁護を目的とするNPO「うぐいすリボン」は2013年2月20日、東京・永田町の参議院議員会館で「サイバー犯罪と刑事捜査を考える~児童ポルノ単純所持規制の論点~」と題する講演会を開催した。登壇したのは、元検事という経歴をもつ落合洋司弁護士。警察の捜査の内情をよく知る落合弁護士が、児童ポルノ単純所持が処罰の対象となった場合の「刑事捜査の問題点」について解説をおこなった。

●児童ポルノ単純所持が「入口事件」に利用される怖れ

落合弁護士が主に語ったのは「警察の摘発がどのように行われるか」という手続きの問題だ。

「児童ポルノ単純所持が犯罪になった場合、不公平な捜査や偏った捜査が行われたり、捜査権が濫用されたり、捜査の過程で収集された証拠が誤って評価されたりして、冤罪を生む危険性がある」と、落合弁護士は指摘する。現在の警察の人的・物的資源からみて、「すべての単純所持を摘発対象とすることは、おそらく不可能」ということで、「偏向捜査」の危険性があるというのだ。

もし児童ポルノ単純所持が禁じられれば、摘発対象が一気に広がることになるが、そのことは、警察にとって捜査の「手段」が増えることを意味する。そのような点から、落合弁護士は次のように推測する。

「警察は、単純所持で立件して処罰しようと動くわけではなく、より大きな『本件』の立件への突破口とする目的で、単純所持罪を『入口事件』『別件』として利用するのではないか」

「入口事件」としての利用とは、次のようなことだ。

「たとえば、殺人や放火など、捜査のきっかけが掴みにくい事件では、入口事件をもとに、令状の発布や被疑者取調べの名目にすることが起こりうる。児童ポルノ単純所持を『入口事件』として、ガサ入れ(家宅捜索)して、『本件』を立件できれば、警察としては『ありがたいこと』になりうるだろう」

●「リスクを前提とした慎重な検討が必要」

このように警察の捜査権を拡大する方向につながる可能性がある、というのが落合弁護士の指摘だが、それは裏を返せば、ごく普通の人が児童ポルノ法に違反したとして捜査対象になる可能性が大きくなるということでもある。

たとえば、メールで一方的に児童ポルノ画像が送りつけられたり、たまたま児童ポルノの画像が掲載されたサイトを見てしまうなど、何らかの理由でパソコンの中に画像データが入り込んだ場合でも、児童ポルノに関する捜査の対象になる怖れがあるのだという。

「このような場合、本来ならば『故意がない』として犯罪は成立しないだろう。しかしパソコン内のデータについて、利用者が『児童ポルノと知らなかった』と故意を否認していても、それ以外の状況から故意が『推認』されてしまう怖れがある」

パソコンがからんだ犯罪に関わっていないにもかかわらず逮捕されてしまった事例としては、誤認逮捕が続いた「遠隔操作事件」が記憶に新しい。そのような事件と同様の冤罪が起きるリスクがある、と落合弁護士は警鐘を鳴らす。

このような問題を踏まえ、落合弁護士は「単純所持罪の犯罪成立要件を厳格化するとか、あるいは捜査権の濫用を抑制するための対策を考えるなど、リスクがあることを前提とした慎重な検討が行われる必要があるのではないか」と訴えた。

(弁護士ドットコムニュース)

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