元テレビ朝日アナウンサーの西脇享輔弁護士が第三者委員報告書の中身を紐解きながら、フジテレビの改革に必要なものを考える連載企画。
第2回は「性暴力認定されたにも関わらず、なぜ刑事責任に問えないか」。
西脇弁護士はプライバシーがさらされる危険のある事件化には「被害女性の気持ちが第一」と強調する。
⚫︎「性暴力」という言葉を使ったのは適切
ーー性暴力の認定にWHOの基準が用いられた
西脇:まずあの基準を報告書で使ったことはとても適切なことだと思っています。性暴力という言葉自体はかなり広い定義を含んでいて、抽象的な言葉ではありますが、それよりも公表されるものの中に書くということは、さらに女性の心を傷つけてしまう可能性があります。とすればWHOの性暴力という範囲で今回の調査としては十分なわけです。
今回はあくまでもフジテレビの事案に対する対応やガバナンスの体制を調べるための調査なので、性暴力という深刻なことが起きて人権が侵害されたという範囲で分かれば、十分なんだろうという気がします。
安易に使うのは良くないのではという話もありますが、人の心を踏みにじってそういったことが行われているのはどの時代でも常にダメなことだったわけです。それが改めて「いけないんだよ」と調査結果や報道で広まったのは「性暴力」という言葉を使った良い点だと思います。
⚫︎刑事責任問うには「女性の気持ちが一番」重要
ーー「性暴力」が認定されたのに「なぜ刑事責任を問われないのか」という声もある
西脇:こればっかりは女性の気持ちが一番だと思うんですよね。
法的には、今は性犯罪は親告罪ではありませんから、本人が告訴しなくても事件化は可能です。しかし、実務的にはやはり被害者の意志が大きく尊重されます。刑事事件になると、取り調べや証言などでプライバシーが侵されるリスクが高まります。
実務の上でも被害者の意思に反して事件化することはなかなかないと思います。今回の事案でも被害者の気持ちが法律的な問題とは別に大事なのかなと。
⚫︎被害女性の「自己責任」ではない
ーー被害女性に対しては「自己責任だ」というような心ない声もあった
西脇:まず法律的に言うと、家に「行く」「行かない」というのはその後の性被害とは全く関係がない話です。 その家に入ったからといって、どんな被害を受けてもいいのかってそんな馬鹿なことがあるわけないです。
その大前提の上で、「なぜ行かざるを得なかったのか」のかを丹念に追及したのが今回の報告書です。相手が有力な出演者や幹部であり、仕事を失いたくないという思いが強ければ、多少の不安があっても断れないという心理になる。それを丁寧に読んでいけば「自己責任」と言える話ではないことが明らかだと思います。
ーー今後、性暴力が起きた場合、どのように被害者は対応すればいいか
西脇:一番理想的なのは、会社のコンプライアンス部門がきっちりしていて、何かあったらそこに駆け込むことができる。信頼してそういった被害を明かすことができる体制が作られることが一番です。
それができていない段階で被害者がどうするべきかは難しいですが、泣き寝入りは絶対にあってはいけません。
それこそメディアや報道機関も含めて、そのような訴えがあった場合は全面的にバックアップできるような体制を外側でも作ることも大事です。