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部下からのパワハラ訴え、上司は「一部は認めるが、他は事実無根」と否定 言い分の違い、対処法は?
2025年09月08日 09時59分
#パワハラ #弁護士

身に覚えのない「パワハラ」で部下から訴えられてしまったーー。弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられています。

相談者は、部下から「暴言を吐かれた」「暴力を受けた」「物を壊された」という理由で訴えられたといいます。相談者によれば、たしかに「バカだな」等の暴言を言ったり、「スキンシップの範囲」と考えてはいるものの暴力と疑われたりする行為をした自覚はあります。

しかし、それ以外の訴え内容は、いずれも相談者以外がおこなったものだそうです。

相談者としては、身に覚えがない事で部下から「パワハラ」で訴えられ、納得がいってません。部下の訴えには、物的証拠も何もないようです。それでも、相談者は「パワハラ」をしたことになるのでしょうか、宍戸博幸弁護士に聞きました。

身に覚えのない「パワハラ」で部下から訴えられてしまったーー。弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられています。

相談者は、部下から「暴言を吐かれた」「暴力を受けた」「物を壊された」という理由で訴えられたといいます。相談者によれば、たしかに「バカだな」等の暴言を言ったり、「スキンシップの範囲」と考えてはいるものの暴力と疑われたりする行為をした自覚はあります。

しかし、それ以外の訴え内容は、いずれも相談者以外がおこなったものだそうです。

相談者としては、身に覚えがない事で部下から「パワハラ」で訴えられ、納得がいってません。部下の訴えには、物的証拠も何もないようです。それでも、相談者は「パワハラ」をしたことになるのでしょうか、宍戸博幸弁護士に聞きました。

●「パワハラ」とは?

──そもそも「パワハラ」とは法的にどのようなものなのでしょうか。

「パワハラ」は労働施策総合推進法に定義されており(30条の2)、次の要件すべてをみたすものをいいます。

(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超える
(3)労働者の就業環境が害される

一般的な認識としての「パワハラ」と、法的な意味での「パワハラ」が必ずしも一致するものではない、ということは覚えておいてください。また、労働施策総合推進法はあくまで労働に関するものであって「職場において」行われることを前提にしていますので、職場以外・仕事の関係以外で行われるものは、法律にいう「パワハラ」にあたりません。

そのうえで、(1)〜(3)の要件についてみていきましょう。

(1)優越的な関係を背景とした言動とは、加害者と被害者の関係性に関する要件です。典型的な例として、上司が部下に対し、業務上の命令に伴って何らかの威迫的な言動をするものです。

なお、パワハラは、上司から部下に対するものに限りません。例えば、部下が集団となって上司に対して威迫的な言動をすることや、特別なポジション・知識・経験を有している部下が上司に対して行うことも含まれます。

(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えるとは、様々な状況を考慮し、社会通念に照らし、業務に必要でないあるいは手段として妥当でないことが明らかであることを言います。つまり、常識的に考えて、明らかに仕事をするうえで不要・過剰な言動を指します。

この要件に該当するかどうかは、目的、被害者側の問題行動の有無・内容・程度、経緯、業種・業態、業務内容、言動の態様・頻度・継続性、被害者側の属性・心身の状態、両者の関係性といった様々な事情を考慮しますので、一概に「ここからがパワハラ」と線引きすることはできません。

また、「常識的に考えて」という部分の「常識」は人によって差があるものです。裁判になった場合、最終的には、裁判所が考える常識に従って判断されることになります。したがって、この線引きについては、弁護士に相談して適切なアドバイスを受ける必要があるでしょう。

(3)労働者の就業環境が害されるとは、パワハラによって、精神的・身体的な苦痛が生じ、被害者が十分に能力を発揮できないなど、見過ごすことができない被害が生じていることをいいます。この判断にあたっても、やはり社会通念、すなわち常識的に考えてひどい状況になってしまっているか、という観点によることになります。(2)と同様、一律の線引きが難しい要件です。

以上のように、パワハラにあたるかどうか明確に線引きすることは非常に難しいといえます。ご自身で即断せず、弁護士に相談するようにしてください。(さらに言えば、弁護士によっても結論が異なることがあります。複数の弁護士に相談するということも必要になるかもしれません。)

●今回の相談はパワハラにあたるか?

──今回の相談は「パワハラ」に当たるのでしょうか。

まず、仮に、部下が主張する内容(高頻度での暴言、暴力、物の損壊)がすべて真実だと仮定したうえで検討します。

本件は、(1)優越的な関係が背景になっているかどうかは、部下がどういったポジションにあるのかによって左右されると思います。(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの、(3)労働環境が侵害されることは、おそらく肯定できると思います。

次に、相談者が主張する内容が真実だと仮定しましょう。

(1)優越的な関係は一般論として肯定されそうです。

(2)(3)ですが、やはり他人に対し「バカだな」と言うことは業務の範囲を超えていると思いますし、こちらとしてはスキンシップのつもりで小突くなどしても相手にとっては単なる暴力と受け取られかねませんので、この要件をみたす可能性があります。

つまり、パワハラにあたる可能性があります。

しかし、何度も申し上げてしまい恐縮ではありますが、この事実だけで判断することは難しいというのが正直な感想です。

やはり、ある程度の時間をかけて、詳しい職場の状況や関係性について詳細を聞き、証拠の有無について検討する必要があります。その点がパワハラ問題の難しいポイントといえるかと思います。

なお、こちらがスキンシップとして、あるいは良かれと思ってやったことが、社会通念に照らし、あるいは相手方の受け取り方によってはパワハラにあたると認定される可能性がありますので、人間関係の構築には注意を払うべきです。

●証拠がなくても「パワハラ」認定されてしまう?

──部下に物的証拠がなくても、相談者が「パワハラ」と認定されることはあるのでしょうか。

仮に裁判になることを想定すると、物的証拠がないと、相談者が「パワハラ」をしたと認定される可能性は低いといえます。

裁判で想定される証拠としては、音声の録音やメール(チャット)などが典型例でしょう。

特にメール(チャット)は文字数・情報量が少ない分だけ、メール(チャット)を受信する側から見ると「冷たい」「攻撃的」「言い方がキツい」と感じる可能性が高まりますので、メール(チャット)を送信する際には、相手の受け取り方を想定して文章を作るように気をつけていただけるとよいと思います。

そのほかにも、同じ職場の皆さんの証言も証拠になるでしょう。ただ、周囲の方としては、面倒事に巻き込まれたくないという思いが強く、証言してくれないケースも想定されます。

●被害者と認識の相違がある場合、窓口などを利用すべき

──このように、被害者と認識の違いがある場合、相談者としてはどのようなことをするべきでしょうか。

当事者同士でじっくり話し合って解決できるのが最良ですが、実際にはそううまくいくはずもありません。

基本的には、事業主つまり会社において、パワハラ防止のための措置をとることが法や関係通達等により定められています。その一環として、ハラスメント相談窓口を設置する企業も増えてきています。そういった窓口があれば、そこに相談し、担当部署に事実調査や調整をお願いするのがよいでしょう。

そういった窓口・担当部署がない場合、上司に相談し、調整を図ってもらうことになると思います。

──弁護士に依頼した方が良いでしょうか?

以上のような手段がとれない場合、あるいは実際に訴訟を起こされてしまったような場合、弁護士に相談するほかないと思います。

職場の人間関係は今後も長く続くものなので、あまり事を荒立てたくないと考える方も多いものです。

たしかに、できるだけ穏便に済ませることも必要ではありますが、当事者同士あるいは会社が間に入ってもどうにもならなければ、弁護士を使うことをためらわないほうがよいと思います。

動き出しが遅くなるほど不利になる可能性が高いので、迷ったらまず弁護士に相談して見解を聞いてみるという選択肢を常に持つようになさってください。

●それぞれの立場で気をつけるべきポイント

──その他、パワハラ問題について感じていることはありますか?

「パワハラ」があったかなかったか、という判断は非常に難しい問題であり、最終的には裁判所で決着することになります。しかし、そういった紛争になってしまうこと自体、皆さんの今後の仕事に悪影響が生じるリスク要因にもなりますし、会社にとっても大きな損失になりかねません。

弁護士がこのようなことを言うのが適切でないというご意見もあるかもしれませんが、「パワハラ」に関する紛争がそもそも発生しない環境づくりこそが、「パワハラ」問題の根本的な解決になるはずです。それが現実的には難しい問題であることも重々承知していますが、それぞれの立場での「パワハラ」防止策を考えてみたいと思います。

まず、会社としては、法や通達に従い、パワハラその他ハラスメントを防止するための制度・人員を整備し、パワハラ防止に関する研修等を含め、社員の皆さんに対する情報共有・教育を図ることが必要です。

特に、ハラスメント対策関係部署に配属されている方は、顧問弁護士や社会保険労務士と連携し、日ごろから最新の情報を入手し、現在のハラスメント防止体制が十分なものであるか、検証を続けていただければと思います。

次に、管理職にある方は、パワハラを訴えられる側になる可能性が高くなります。日々の言動が部下に対しハラスメントになってしまわないか、常にご自身の言動に細心の注意を払っていただければと思います。

部や課といった閉ざされた世界では、管理職の方の言動が部下に対して与える影響がどうしても大きくなってしまいます。日ごろから、部下の特性を把握し、どう接するのが最適か、PDCAを繰り替えしていくほかないのではないでしょうか。過度に委縮する必要はありませんが、ご自身の言動を常に振り返る姿勢があることが望ましいと思われます。

そして、ハラスメントを受けたあるいは受けている可能性がある方は、迷わず会社内外の相談窓口、弁護士にまずは相談してみてください。

実際に被害が生じていればすぐに止める必要があります。他方、社会通念上「パワハラ」とはいえない内容(つまり、他の人からみると「パワハラ」とはいえない内容)で大々的に動いてしまった結果、職場に居にくくなるという事態も実際にあります。

ご自身のお考えが社会通念に照らしてどうか、まずは弁護士に相談してみてから動く、という選択肢もぜひ持っていただければと思います。

最後に、これは全員に共通することですが、我々は、総じて「議論」に慣れていない側面があります。他人の意見を批評するときどうしても人格攻撃になってしまうとか、他人から何か意見を言われると人格を否定されているように感じてしまうことがあります。

このような不幸なボタンの掛け違いが、「パワハラ」問題の遠因のひとつかもしれません。

あくまで、会社という場所が様々なバックグラウンドと様々な意見をもった様々な人々の集合体であることを前提に、何をどのように伝え「たい」ではなく、何をどのように伝える「べきか」という点を意識して業務に取り組まれると、「パワハラ」問題の減少につながるように感じてなりませんし、より効率的な業務遂行が期待できるのではないでしょうか。

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