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「せめて同僚には伝えたい」涙ながらの訴えもスルー 口止めされた「労働審判」の違法性
2021年01月05日 10時14分

雇止めをめぐる労働審判で口外禁止を命じられ、精神的苦痛を受けたとして、男性が国を訴えていた訴訟で、長崎地裁(古川大吾裁判長)は12月1日、口外禁止の命令を違法と判断した。ただし、配慮不足は否定できないとしつつも、賠償請求は認めなかった。

男性は運転手として働いていたバス会社から雇止めされ、労働審判を申し立てた。労働審判委員会は、口外禁止条項を盛り込むことを条件に、会社が解決金230万円を払うという解決案を提示したが、男性から拒否された。

その理由について男性は、同僚が励ましてくれたことが精神的な支えになったとして、せめて解決したことは伝えたいと涙ながらに訴えたという。しかし、審判官は結局、口外禁止条項をつけた審判をくだした。

労働審判での口外禁止条項を違法とする判決は初めてとみられる。今回の判決には、どのような影響があるのだろうか。労働事件を専門とする白川秀之弁護士に聞いた。

雇止めをめぐる労働審判で口外禁止を命じられ、精神的苦痛を受けたとして、男性が国を訴えていた訴訟で、長崎地裁(古川大吾裁判長)は12月1日、口外禁止の命令を違法と判断した。ただし、配慮不足は否定できないとしつつも、賠償請求は認めなかった。

男性は運転手として働いていたバス会社から雇止めされ、労働審判を申し立てた。労働審判委員会は、口外禁止条項を盛り込むことを条件に、会社が解決金230万円を払うという解決案を提示したが、男性から拒否された。

その理由について男性は、同僚が励ましてくれたことが精神的な支えになったとして、せめて解決したことは伝えたいと涙ながらに訴えたという。しかし、審判官は結局、口外禁止条項をつけた審判をくだした。

労働審判での口外禁止条項を違法とする判決は初めてとみられる。今回の判決には、どのような影響があるのだろうか。労働事件を専門とする白川秀之弁護士に聞いた。

●口外禁止条項つきの審判は特殊

ーー労働審判で口外禁止条項がつくことはよくあることなんでしょうか。

労働審判手続きの多くは調停(話し合い)で解決します。話し合いにおいて使用者側から口外禁止条項を求めてくることは頻繁にあり、口外禁止条項を設けて調停をすることもあります。

話し合いがつかない場合には労働審判委員会が労働審判を出しますが、この労働審判において口外禁止条項が定められた例についてはこれまであまり聞いたことがありません。それだけ、今回の事案は特殊だと思います。

裁判手続きでも、和解をする際に口外禁止条項を定めることはあり得ますが、あくまで当事者の合意が必要です。判決で口外禁止を命じることはできません。

●口外禁止条項に「合理性」はあるのか?

ーー判決では、口外禁止条項に「一定の合理性を見出すことができるというべき」との表現もあります。

判決では、「第三者に口外されることで、例えば不正確な情報が伝わることにより、原告及び本件会社双方が無用な紛争等に巻き込まれることがあり得る」としていますが、このような事態は聞いたことがありませんし、考えにくいと思います。

今回のような雇止めや解雇を争う場合で紛争になり得るのは解雇された労働者と使用者であり、解雇されていない労働者が会社を訴えるということは考えにくいです。一方、割増賃金の未払いは当該労働者だけ支払われないということはなく、労働者全員に未払いとなっている場合がほとんどです。

使用者が口外禁止条項を求める真意は、違法行為をやったことについて、他の従業員に波及することを防ぐことだと思います。

口外禁止条項は、金銭を支払うことと引き替えに労働審判で得られた結果を当事者だけに限定されてしまいます。そのため、どうしても手続きが個別の権利の救済にとどまってしまい、労働者の権利が守られる会社、社会にしていくという方向とは相反するものと思います。

私の個人的な考えとしては、口外禁止条項に積極的な「合理性」は認められないとは思います。調停や和解での口外禁止条項であれば、当事者が納得した上での条項なので、それ自体が不合理ではないでしょう。

●ポイントの1つは当事者が拒否しているかどうか

ーー口外禁止条項つきの労働審判の是非はどのように判断されますか?

判決の事案は手続きの過程で原告が明確に拒絶していた口外禁止条項を、労働審判で命じたものです。

労働審判法20条1項は「労働審判委員会は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえて、労働審判を行う。」とあるため、手続きの過程で強く拒否をしていた口外禁止条項を入れることが労働審判法20条1項、2項に違反すると判断されたと言えます。

当事者が明確に拒否をしている場合、協議の争点になっていないような場合に、労働審判で口外禁止条項を設けることは違法になり得ると思います。

逆に金銭で解決をすること、口外禁止条項に当事者双方が同意をしつつ、金銭の額だけ争いがあるような場合には、口外禁止条項を労働審判で定めたとしても違法とは言えないと思います。

●口外禁止を強いる動きへの歯止めを期待

ーー判決の影響はどうでしょうか?

当事者が強く拒否をしているにもかかわらず労働審判で口外禁止条項を定めた事案は本件以外、あまり聞いたことがありません。今回の事案でも異議を申し立てて裁判になっていれば問題にはならなかったと思います。そのため、判決が与える影響はそれほど大きくはないと思います。

ただ、口外禁止条項を明確に拒絶している労働者に対して、強引に条項を入れようとする労働審判手続きがなされることもあります。そのような動きに対しては一定の歯止めをかけることができると思います。

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