5418.jpg
「NHKが映らないテレビ」は販売困難…「イラネッチケー」誕生の理由、製作者に聞く
2018年12月09日 09時51分

今年6月、ソニーの株主総会で「NHKだけ見られないテレビを作ってほしい」と株主が要望し、話題になった。

そんなテレビ、作れるのだろうか。筑波大准教授(メディア工学)の掛谷英紀さんによると、技術的には難しくないという。「ただ、特許や権利の関係で販売はできないでしょうね」

掛谷さんは、NHKの電波をカットするフィルター「イラネッチケー」の開発者としても知られる。権利問題の回避、これこそがイラネッチケーが誕生した理由だという。

今年6月、ソニーの株主総会で「NHKだけ見られないテレビを作ってほしい」と株主が要望し、話題になった。

そんなテレビ、作れるのだろうか。筑波大准教授(メディア工学)の掛谷英紀さんによると、技術的には難しくないという。「ただ、特許や権利の関係で販売はできないでしょうね」

掛谷さんは、NHKの電波をカットするフィルター「イラネッチケー」の開発者としても知られる。権利問題の回避、これこそがイラネッチケーが誕生した理由だという。

●ネックは「ARIB(アライブ)規格」

掛谷さんがネックと指摘するのが、放送事業者などで作る「電波産業会(ARIB)」が策定した「ARIB(アライブ)規格」だ。

デジタル放送に関する標準規格で、地デジ対応のテレビがこの規格に準拠している。NHKはもちろん、東芝やソニー、パナソニックなどのテレビメーカーも会員に名を連ねている。

NHKが映らないテレビは規格をクリアするのか。弁護士ドットコムニュースは6月に、ARIBに取材している。

担当者によると、ARIBの標準規格では、テレビの受信機は全チャンネルを受信できることが前提になっているという。つまり、NHKが映らないテレビはARIB規格を満たせない可能性がある。

「テレビ局やメーカーが集まって作った規格ですから、特定の局を映さないというのは、そもそも想定していないですよね。ただ、民間の標準規格なので、国の基準のように必ずしも従う必要はありません」(ARIB担当者)

●思い出される「スマートビエラ事件」

ただし、理論上可能でも、実際にできるかは別だ。

思い出されるのは、2013年に起きたパナソニックのテレビ「スマートビエラ」の問題だ。このとき、ARIB会員のテレビ局は、同製品がARIBのガイドラインに反すると主張。一時パナソニックのCMが流れなくなった。

問題になったのは、テレビを起動すると同時に、テレビ番組の枠の外側にインターネットのサイトなどが表示される仕組み。視聴者が放送番組とネット情報を混同することが懸念された。結局、パナソニックは仕様を見直した。

●特許を一括管理「アルダージ社」の見解は?

ちなみに、ARIB規格を満たすのに必須の特許は、複数の企業にまたがっており、ソニーやシャープなどのメーカーが出資して作った「アルダージ」(東京・千代田区)という会社が権利を一括管理している。必須の特許だけで700件ほどあるそうだ。

NHKには「放送技術研究所」という研究機関があり、放送関係の特許を大量に持っている。一部は、このARIB規格などの必須特許だ。

アルダージの担当者によると、「許諾に条件はない」そうで、希望すれば原則許諾を受けられるという。ただし、テレビ関係で、アルダージが管理していない特許もあり、その場合は個別に許諾をとる必要がある。

●NHK「固定したボンドを温めて、取り外す」再現実験

テレビには大量の特許がつかわれており、複雑な背景事情も考慮したうえで、掛谷さんはすでに売られているテレビを「改造」することにした。そうしてできたのが、「イラネッチケー」というフィルターだ。

ただし、取り外しが可能であることから、単にイラネッチケーを取り付けただけでは、受信料の支払いを免れることはできない。

そこで、イラネッチケーをテレビに固定し、テレビそのものを壊さないと取り外せないようにした状態で受信料の支払いが必要かどうかが、改造テレビ所有者の提訴による複数の裁判で争われている。

NHKもこれに対抗。ある裁判では、テレビを解体、フィルターを固定した接着剤をドライヤーの熱で温め、ドライバーで削り取る再現実験を実施していた。難易度にかかわらず、取り外せれば、受信料の支払いは必要だと判断される可能性が高い。

●「NHKと契約しない自由も必要」

イラネッチケーをめぐってはこのほど、新たな固定法で裁判が提起されており、12月17日に東京地裁で第一回口頭弁論が開かれる。

2017年12月6日の最高裁大法廷判決は、NHKの受信契約強制を合憲と判断した。NHKを視聴しているかどうかにかかわらず、テレビを持っていれば、事実上、受信料を支払わなくてはならない。

掛谷さんは、「NHKの存在意義をすべて否定するつもりはありませんが、公共性が疑われる出来事も起きている。NHKと契約しない自由も必要」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る