8582.jpg
「迷惑車両をさらして撲滅する」SNSで人気を博す“正義マン”の法的リスク
2024年08月31日 09時49分
#肖像権 #損害賠償 #プライバシー #迷惑車両

迷惑行為をしている車の画像や動画が、SNSで拡散されているのを見たことはありませんか。無断駐車や割り込み、あおり運転などをした車の様子を、ナンバーも隠さずにハッシュタグ「#迷惑車両」などをつけて共有されていることもあります。

無断駐車などドライバーの顔がわからない画像もありますが、中にはドライバーの顔がはっきりとわかるようなものもあります。

迷惑車両に関する投稿のみをしているアカウントもあり、中には「迷惑車両をさらすことで乱暴な運転を撲滅する」という“正義”を掲げているものも見受けられますが、迷惑車両とはいえナンバーやドライバーの顔や姿をSNSで公開しても法的に問題ないのでしょうか。杉本拓也弁護士に聞きました。

迷惑行為をしている車の画像や動画が、SNSで拡散されているのを見たことはありませんか。無断駐車や割り込み、あおり運転などをした車の様子を、ナンバーも隠さずにハッシュタグ「#迷惑車両」などをつけて共有されていることもあります。

無断駐車などドライバーの顔がわからない画像もありますが、中にはドライバーの顔がはっきりとわかるようなものもあります。

迷惑車両に関する投稿のみをしているアカウントもあり、中には「迷惑車両をさらすことで乱暴な運転を撲滅する」という“正義”を掲げているものも見受けられますが、迷惑車両とはいえナンバーやドライバーの顔や姿をSNSで公開しても法的に問題ないのでしょうか。杉本拓也弁護士に聞きました。

●“一方的な正義”が問われる法的責任は小さくない

──「迷惑車両」やそのドライバー相手であれば、他人のナンバーやドライバーの顔・姿をさらしても問題ないのでしょうか

昨今、YouTubeやSNS等に迷惑車両や行為を投稿する行為が数多く見られるようになりましたが、この後述べるように、肖像権・プライバシーの侵害や、名誉毀損罪、偽計業務妨害罪などに問われる可能性がありますので、投稿は慎重になるべきだと思います。

ドライバーの顔や姿をインターネット上に投稿する行為については、肖像権(みだりに自己の容姿などを撮影されない権利)やプライバシー権(私生活上の情報を無断で公表されない権利)の侵害、及び名誉毀損となる可能性が高いです。

名誉毀損は、公共性(摘示した事実が公共の利害に関する事実であること)、公益目的(摘示の目的がもっぱら公益を図ることにあること)、および真実性(真実であるか真実と信じるに足る相当の根拠があること)のいずれの要件も満たせば、違法性が阻却される(=民事上も刑事上も責任を問われない)のですが、本件のような行為は「公益目的」がないと判断される可能性が高いです。

その結果、民事上の責任としては、民法709条に基づく不法行為責任として損害賠償義務を負うことに加え、動画や画像の投稿の差止め等の請求に従わなければならない可能性があります。

また、刑事上の責任としては、名誉毀損罪(刑法230条)が成立する可能性があります。また、投稿した車両が事業者の社用車である場合は、業務を妨害したとして偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立する可能性も考えられます。

なお、ナンバープレートの番号だけであれば個人が特定できないことから「個人情報」には該当しないと考えられていますが、周辺の状況や車種等から運転者や所有者が特定される可能性もあり得るので、注意が必要です。

──SNS等でナンバーをさらされた事を理由に、車の買い替えやナンバーの変更をおこなった場合、投稿者に損害賠償をする事は可能でしょうか

インターネットでナンバープレートをさらされる投稿が拡散され、運転者や所有者が特定されてプライバシー権が侵害された場合や、日常生活に支障を来す事態になり車の買い替えやナンバーの変更を行わざるを得なくなった場合には、投稿者に対する損害賠償請求が認められる場合もあり得るでしょう。

過去には、高速道路で起きたあおり運転の事件で、事件とは関係がない女性の名前や顔写真が車に同乗していた「ガラケー女」だという虚偽の情報とともにSNSで拡散された件につき、SNSに投稿していた元市議会議員に対して名誉毀損を理由とする損害賠償が認められています。

この件は事件と関係のない女性でしたが、仮に事件の当事者であったとしても、名誉毀損が成立する可能性があるので、やはり安易な投稿は控えるべきでしょう。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る