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クマと5回遭遇、無事生還した男性「刺し違える覚悟で山に」 専門家は"自己流対策"に警鐘「原則は出遭わない、引き付けない」
2023年11月21日 09時48分
#クマ

今年は各地でクマの被害が続き、クマの報道をメディアで見かけない日はありません。

「これまで5回、至近距離でクマに遭遇した」と話す40代男性から弁護士ドットコムのLINEに連絡がありました。自ら編み出したオリジナルの方法によって、幸いなことに一度も被害を受けなかったといいます。

ところが、その詳細を聞いた専門家は「クマによる事故防止の原則」と真逆を進む男性の行動を「危険」だと指摘します。「山だけでなく市街地でもクマによる被害がある。自己流の対策ではなく、適切な知識に触れてほしい」(専門家)

今年は各地でクマの被害が続き、クマの報道をメディアで見かけない日はありません。

「これまで5回、至近距離でクマに遭遇した」と話す40代男性から弁護士ドットコムのLINEに連絡がありました。自ら編み出したオリジナルの方法によって、幸いなことに一度も被害を受けなかったといいます。

ところが、その詳細を聞いた専門家は「クマによる事故防止の原則」と真逆を進む男性の行動を「危険」だと指摘します。「山だけでなく市街地でもクマによる被害がある。自己流の対策ではなく、適切な知識に触れてほしい」(専門家)

●闇夜にまぎれ…いきなり目の前にクマの顔「あと一歩踏み込んでいたら」

遠巻きに見た1回を含めて過去6回、クマと遭遇したというのは、兵庫県神戸市に住む山本隆宏さん(仮名、自営業)です。

登山や自転車レースを趣味とする中で、全国各地の山におもむき、クマと出遭ってきたといいます。幸いなことにケガなどはしていません。

六甲山(兵庫県)のゴルフ場を歩いているクマを遠巻きに見かけたのが最初でした。肝を冷やしたのは2000年、自転車レースのために訪れた乗鞍高原(岐阜県・長野県)で、宿泊先から温泉まで歩いていたときのこと。

「獣の臭いとともに、大型犬の唸り声が聞こえました。もともと山の月明かりしかない薄暗い山道だったのが、目の前が急に真っ暗になった。目をこらすと、あと二歩くらい進んだ先にクマが立っていた。一歩踏み込んでいたら、やられていたと思います」

174センチの山本さんでも見上げる角度にクマの頭があったといい、2メートルはあるように感じたそうです。

「一緒にいた後輩に目をそらすなと指示して、ゆっくり後退りしました。50メートルくらいの距離がとれたときに、ダッシュで大きな道路に逃げ込みました」

この体験以降、山に行くことを避けるどころか「クマと刺し違える覚悟で山に入っている」という山本さんは、体をプロテクターで守り、催涙スプレーを携えるように。

クマに出遭うと「なんやお前!」「おりゃー!」と大声で叫び、威嚇してきたといいます。

2022年9月にも、奥穂高岳(岐阜県・長野県)を下山中に見かけたクマに「一歩踏み込んで大声を出したら逃げていきました」。

ただ、「人を攻撃した経験のあるクマだったら、無事では済まなかったかもしれない。クマに出遭ってしまうまでは、山を歩くときはクマ鈴を鳴らさず、ヘッドライトも消して、こちらに気づかれないようにしています」と話します。

●専門家が注意喚起「クマに気づかれないように歩く」→大変危険

自らの行動を省みながらも、"戦うこと"を前提に行動する山本さんの姿勢は適切なのでしょうか。クマの生態にくわしい石川県立大学の特任教授・大井徹さん(野生動物管理学)は「危険な歩き方」と注意しながら、「クマによる事故防止の原則は、出遭わない、引きつけないこと」と強調します。

画像タイトル 石川県立大学の大井徹特任教授(本人提供)

「2000年~2022年まで、計5回近距離でクマと遭遇したとのことですが、危険な歩き方をされているのではないでしょうか。クマ鈴を鳴らさず、ヘッドライトも消して、クマに気づかれないように歩くというのは大変危険です」

大井さんによれば、山の中で出遭わないためには、音が鳴り、クマに人間の存在を早めに知らせるもの(クマ鈴など)の携帯や、藪など見通しの悪い場所を通過する際には、大きな声を出す、柏手を打つこともよいといいます。

「クマの気配がわからない人には特にそのような対策が必要です」

山本さんがクマと出遭ったときにする「大声での威嚇」は、クマとの距離によっては適切でない場合もあるそうです。

「出遭ったときに大声で威嚇するのは、20〜30メートル以上離れており、かつクマの逃げ道がある場合は、クマを追い払うために有効な場合があります。10メートル以内の至近距離で遭遇した場合、クマの攻撃行動を誘う場合もありますので、おすすめしません」

●「観察しながらゆっくり後退するのはセオリー」スプレーはカプサイシン入りのものを

山本さんの行動がすべて不適切だというわけではありません。

「クマと出遭った際に、クマを観察しながら、ゆっくりと後退したのは、クマに刺激を与えないよう、ゆっくりクマから離れるという事故防止のためのセオリー通りの行動で、的確だったと思います」

大井さんによれば、クマが立ち上がるのは「接近してきたものが何か確認しようとしたもの」だと思われ、攻撃的な行動ではないといいます。

また、万が一に備えて催涙スプレーの成分がカプサイシン(トウガラシの成分)の場合、クマ撃退の効果が実証されているといい、「カプサイシンが成分であるクマ撃退用スプレーを携帯されるのがよいと思います」とアドバイスします。

カプサイシンではない成分を含有しているものについては、「効果が不明」だそうです。

●大前提は「クマと出逢わないようにすること」だが、自然は何があるかわからない

大井さんは「クマによる事故防止の原則は、出遭わない、引きつけないこと」を繰り返し強調します。

「九州以外の日本の山では、どこもクマの生息地で、遭遇する危険があることを忘れず登山を楽しんでいただけるようお願いします」

ただし、相手は"自然"です。セオリーが通用しない場合もあることは当然ながら認識しておかなければいけません。

「なお、非常に稀にですが、人間を捕食するために近づいてくるクマがいるかもしれません。興奮した様子もなく、じりじりと迫ってきます。そのような場合は、身体を大きくみせ、大声で威嚇するとともに、反撃するしかありません。

クマ撃退用スプレーを所持している場合には、発射する準備をする。そうでない場合は、手近にある木の棒、岩、鉈(なた)など武器になるものを持ち、応戦する必要があります。大声を上げているうちに、近くに誰かいれば助けにきてくれるかもしれません」

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